マイクロプラスチックは人間の健康に有害ですか?
この分野に関心を持つ方であれば、大量のプラスチックが自然界に散乱している光景に胸を痛めることでしょう。浮遊するプラスチックの島々、プラスチックをヒナに与える鳥たち、プラスチックの輪に絡まるカメなどの話は、心を痛めます。フロリダ州の沿岸部では、プラスチック製の食器、ストロー、タバコの吸い殻、使い捨ての包装材などが浜辺に打ち上げられ、白い砂浜を点々と汚しているのが日常の光景となっています。
使い捨てのプラスチック製品(ペットボトル、タンポンのプラスチック部分、ビニール袋、食品容器、医療廃棄物、ビーチ用のおもちゃ)や、捨てられたプラスチック製品(サングラス、釣り具など)は、水路の奥深くまで入り込み、海洋環境に甚大な被害をもたらし、野生生物を毒し、その美しさを汚染しています。
使い捨てプラスチックが問題であることは理解していても、それを避けるのは容易ではありません。さらに、プラスチック汚染が野生生物に害を及ぼし、命を奪うことは知っていても、それに対して無力感を覚えることもあります。それでは、この同じプラスチックが人間の健康に与える影響について、どれほど心配すべきでしょうか?
Contents
マイクロプラスチックとは何か?そしてその発生源は?
石油由来のプラスチックは、1950年代にその多様性と耐久性が家庭で評価されて以来、広く使用されてきました。現代では悪者扱いされることが多いプラスチックですが、医療やヘルスケア分野など、特定の場面では依然として有益です。プラスチックは革新的で命を救う機器の開発を可能にし、無菌状態を保つ手段にもなりました。
しかし現実として、石油由来のプラスチックは生分解されないので、リサイクルできるプラスチックはごくわずかです。私たちの台所や日常生活でその耐久性が重宝されたのと同じ特性が、今や大きな健康と環境の危機を引き起こしているのです。
プラスチックが自然環境に放出されると、それは溶けたり消えたりせず、永遠に残ります。つまり、大きなプラスチックはやがて小さく砕けていき、それがいわゆる「マイクロプラスチック(MPs)」になります。アメリカ海洋大気庁(NOAA)は、マイクロプラスチックを「5ミリメートル未満の小さなプラスチック片」と定義しています。つまり、鉛筆の消しゴムの先より小さなサイズから、肉眼で見えないほど微細なものまでを指します。
マイクロプラスチックには2種類あります。1つは「一次マイクロプラスチック」と呼ばれ、化粧品、洗剤、おむつ、塗料、医薬品などに添加されるプラスチック粒子です(例:スクラブ洗顔料やボディウォッシュに含まれるマイクロビーズ)。また、合成繊維の衣服からはがれたり、塗料から染み出したりする微小なプラスチック繊維もこれに含まれます。一次マイクロプラスチックは、排水口や洗濯機を通じて下水処理場へ流れ込みますが、そのサイズが小さいためろ過をすり抜け、海へと放出されます。
もう一つの「二次マイクロプラスチック」は、多くの人が思い浮かべるタイプで、大きな使い捨てプラスチックやその他のプラスチック製品が分解された結果として発生します。二次マイクロプラスチックは、リサイクルされずに自然に捨てられたり、海や川へ流されたりした結果、太陽光、塩分、波などの厳しい環境によってどんどん細かく砕けていきます。
どのような形であれ、一度環境の中に放出されたマイクロプラスチックは簡単には消えません。その小さなサイズもあって、水、空気、土壌、そして最終的には食物連鎖にまで簡単に入り込んでしまいます。
人間はどのようにマイクロプラスチックにさらされているのか?
人間は様々な経路でマイクロプラスチックにさらされています。たとえば、空気中に漂うマイクロプラスチックの吸入(文字通り、風の中にも含まれています)、プラスチック製品や合成繊維の衣類との接触、そして摂取などです。
「えっ、プラスチックを食べるなんて気持ち悪い!」と思うかもしれません。もちろん、誰もマイクロプラスチックを食べようとは思っていません。しかし、魚介類や貝類を食べたことがある人は、知らないうちにマイクロプラスチックを摂取している可能性があります。海に存在するマイクロプラスチックの量は非常に多く、海洋生物は常にそれらを摂取しています。人間がマイクロプラスチックを摂取する主な経路は魚介類であり、とくに貝類などの「天然の海のフィルター」ともいえる生物には、ヒレのある魚よりも多くのマイクロプラスチックが含まれているとされています。
マイクロプラスチックは水中に限らず、土壌でも発見されており、土壌の生物多様性や陸上の生態系にも脅威を与えています。土壌中の大量のマイクロプラスチックは水の流れや吸収に悪影響を及ぼし、植物の根付きを妨げ、ミミズのような有益な土壌生物がマイクロプラスチックを餌と間違えて死んでしまう原因にもなります。つまり、土壌中のマイクロプラスチックは、私たちが必要とする食料の栽培を難しくすることで、人間の健康にも影響を及ぼしているのです。
さらに残念なことに、私たちがマイクロプラスチックを摂取してしまう最も一般的な方法の一つは、ペットボトルやテイクアウト用容器などの使い捨てプラスチックです。研究者たちは、1リットルサイズのプラスチックボトルに24万個のプラスチックナノ粒子が含まれていることを確認しました。これらは腸や肺を通過して血流や臓器にまで入り込む可能性があります。
では、マイクロプラスチックは人間にとってどれほど危険なのか?
石油由来のプラスチックが人間に広く使われ始めてから70年以上が経ち、今やプラスチックは文字通り私たちの体の一部になりつつあります。マイクロプラスチックが人間の体内に入り、蓄積されることはすでに確認されています。しかし、私たちがどのようにしてそれを吸収し、代謝し、排出しているのか(あるいはまったく排出できていないのか)は、まだ科学的に明らかになっていません。プラスチックの種類も多様であり、人間が接触する形や量も様々であるため、どの程度が有害で、どんな疾患や病気を引き起こす可能性があるのかといった人間の健康に対する直接的な影響についての包括的な研究はまだ不足しています。
ただし、広範囲かつ継続的にマイクロプラスチックにさらされることが、人間の健康に悪影響を及ぼす可能性が高いということは否定できません。
魚や他の動物を対象とした研究では、マイクロプラスチックが体内に入ると循環系を通じて細胞や組織にまで届くことが示されています。また、「マイクロプラスチック曝露の健康影響に関する研究」では、「マイクロプラスチックが体内に蓄積することで、栄養失調、炎症、生殖能力の低下、死亡率の上昇といった様々な悪影響が確認されている」と報告されています。これと同様のことが、人間の体内でも起きている可能性があります。
さらに懸念すべきは、マイクロプラスチックそのものに加えて、それが吸着しているさまざまな有害化学物質も同時に体内に取り込まれるリスクがあるという点です。poison.orgによると、マイクロプラスチックは重金属、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、農薬など、環境中の有害な化学物質を吸収する可能性があるとされています。
マイクロプラスチックは細胞に侵入し、消化器系などの生体機能に影響を与えることで、毒素を体内に運び込む可能性があるため、研究者たちはこれが若年性乳がんや大腸がんの増加に関係している可能性や、その他の疾患を引き起こす媒体となっている可能性についても調査を進めています。さらに、空気中のマイクロプラスチックへの継続的な低濃度の曝露は、呼吸器系や循環器系の疾患につながる可能性もあると考えられています。ただし、これらについても人間を対象とした決定的な研究はまだ不足しています。
私たちにできることは何か?
マイクロプラスチックへの曝露をコントロールし、環境から取り除くことを考えるとこの問題の複雑さが見えてきます。
たとえ全ての人がプラスチックとの接触を完全に避け、魚介類を食べるのをやめ、今後一切プラスチック製品を購入しないとしても、マイクロプラスチックは私たちが呼吸する空気や水源の中に依然として存在し続けます。この問題に持続的な効果をもたらすには、「予防」と「除去」の両面からの多角的なアプローチが必要です。
予防の大きな部分は、新たなマイクロプラスチックが環境中に放出されるのを減らすことです。消費者として、私たちは紙、ガラス、竹、天然繊維の衣類など、より環境に優しい選択肢を購入することで貢献できます。
植物由来の「バイオプラスチック」の開発は、従来の石油由来プラスチックの代替として注目されています。これらは自然に分解されるため、マイクロプラスチックにはなりません。しかし、現時点では製造コストが高く、多くの企業で広く採用されていないのが現状です。とはいえ、実現すれば、従来の合成プラスチックよりも低い炭素排出量で済む可能性があります。
すでに存在するマイクロプラスチックを環境から除去することは困難な作業ですが、期待できる研究や技術も進められています。たとえば、電極を使用してマイクロプラスチックを分解し、無害な水分子に変える技術などが探られています。ただし、このプロセスは高コストで、まだ一般化には至っていません。
2019年には、アイルランドのティーンエイジャーが科学コンテストの一環で「フェロフルイド(磁性流体)」という油と磁性粉末を組み合わせた物質を使い、マイクロプラスチックを磁気で引き寄せて除去するというアイデアを発表しました。このシステムは下水処理施設に導入できる可能性があり、一次マイクロプラスチックの回収に効果的とされています。
ドイツの企業では、シリカ(ケイ素)を水に加え、渦を利用してマイクロプラスチックを水面に集めて回収するという方法も開発されています。さらに、カナダのウォータールー大学の研究者と化学工学教授ティザズ・メコンネンは、熱分解を利用してエポキシ樹脂を活性炭に変えることに成功しました。活性炭はナノプラスチックの除去に有効とされています。
私たち個人や家庭レベルでも、マイクロプラスチックへの曝露を減らし、環境負荷を軽減するためにできることがあります:
- 浄水器を導入する:ほとんどの浄水システムは、飲料水中のマイクロプラスチックを除去または大幅に減少させることができます。
- 空気清浄機を使う、もしくは高性能なフィルターを使ったエアコンシステムを使用する(フィルターは定期的に交換)。
- 魚介類、特に貝類の摂取を控える。
- 合成繊維ではなく、天然素材の衣類を購入する。すでに使用された合成繊維製品をリユースするのも有効。
- バイオプラスチックを使用した製品を選ぶ(例:食品包装、おもちゃ、使い捨て食器など)。
- プラスチック袋の代わりにエコバッグを使う。手で持ち運べる場合は袋を断るのもOK。
- 自宅や外出先で使える「マイ食器セット」を用意する(金属のフォーク・スプーン、布ナプキン、再利用可能なストローなど)。
- ペットボトルを避ける。使い捨てであっても、ガラス・アルミ・ステンレス製のものを選ぶ。
- 食品の保存には、プラスチック以外の方法を使う。
- 使い捨てプラスチックを使わない
最後に
日常生活の中で完全にプラスチックやマイクロプラスチックを避けることは、現実的には難しいでしょう。それでも、自分自身や他人がこの問題を認識し、よりよい選択をしようと努力しているのなら自分をほめてあげるきです。たとえ今回の提案のうちひとつだけでも取り入れられたなら、それは前向きな一歩です。
