
誰だって、一度は夢見たことがあるんじゃないでしょうか。
まるでおとぎ話みたいな恋を。
子どもの頃の私は、少女マンガにすっかり心を奪われていました。
不器用で、ちょっと頼りない男の子が、物語の最後には必ず主人公の女の子に恋をして、
まるでこの世界に彼女しか存在しないかのように見つめる――そんなシーンに胸をときめかせて。
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10歳の私には、それが「恋の理想」そのものだったのです。
でも、大人になるにつれて、恋の形はいろいろあることを知りました。
マンガの中で輝いていた恋は、現実では少し違う。
皮肉屋になったわけじゃないけれど、人の心はそんなに単純じゃないって気づいたんです。
正直でいるほうがきっと楽なのに、私たちはそれを怖がって、
争いも、痛みも、真実も避けてしまう。
そして、「うまくやろう」とついた小さな嘘が、
気づけば大きなもつれになっていく。
“『Love on the Spectrum』を通して、私は「誠実さ」と「静けさ」の中にこそ、本当の愛の優しさがあることに気づかされた。”
30代のある日、Netflixで『Love on the Spectrum』という番組を見つけました。
自閉スペクトラム症の男女が「恋」を探すドキュメンタリー。
最初は、自閉症のことをほとんど知りませんでした。
「スペクトラム」という言葉の通り、人によって度合いが違い、
主にコミュニケーションや人との関わりに影響がある――その程度の知識。
だからこそ、「恋愛」という誰にとっても難しいテーマを、
彼らがどう歩んでいくのかが気になったのです。

観始めたら、あっという間に時間が過ぎていました。
この番組には、描かれ方に対する批判もあると聞きます。
私は「定型発達者」だから、その立場から何か言えるわけではありません。
ただ、出演者の多くが白人で、比較的恵まれた環境にいたことが、
彼らの恋愛経験に影響しているのかもしれないとは思いました。
それでも心を打たれたのは、彼らの「誠実さ」でした。
自分にも、相手にも、家族にも、正直であろうとする姿。
彼らのデートに、相手に対する丁寧さと誠実さを感じました。
言葉を練習したり、服を選んだり、
男性たちは椅子を引いて、相手のためにドアを開けて。
会話はぎこちなく、沈黙も多くて、
「友達でいましょう」で終わることも少なくない。
でも、そこには不思議な温かさがあって、
思いがけない愛が、静かに芽を出していく。
沈黙が苦手な私にとって、その静けさは小さな発見でした。
言葉のない時間の中に、
優しさや真実が、確かに存在しているのです。
“彼らの前向きな姿から、恋において大切なのは自分を責めることではなく、「自分だけの光」を信じることなのだと気づかされた。”
そして何よりも美しかったのは、彼らの「前向きさ」。
うまくいかなくても、涙を流しても、決して諦めない。
「何が悪かったんだろう」ではなく、「きっと縁がなかったんだ」。
その潔さに、私は何度も心を打たれました。
恋愛を求めるとき、私たちはつい自分を責めがちです。
「可愛くないから」「細くないから」「背が低いから」――
そんな理由を並べては、
自分を「足りない」と思い込んでしまう。
でも考えてみたら、そんな風に自分を削ってまで恋をするなんて、
少し悲しいことですよね。
世界には、あなたより綺麗な人も、
賢い人も、魅力的な人もいる。
でもそれでいい。
あなたはあなたにしかなれないし、
その中にしかない光が、ちゃんとあるのです。

番組を見ながら思ったのは、
自閉症の人たちが持つ「シンプルな視点」が、
人間関係の本質をすっと映し出しているということ。
相手に好かれなかったとしても、
それはただの事実であって、
自分の価値とは関係がない。
痛みはあるけれど、必要以上に掘り下げない。
その潔さが、なんだか眩しく見えました。
そして、誰かを好きになったときの彼らの反応――
まっすぐで、純粋で、隠せない。
笑って、飛び跳ねて、全身で「嬉しい!」を表す姿に、
私は高校時代の初恋を思い出しました。
ただ「好き」という気持ちだけでいっぱいだったあの頃。
駆け引きも、言い訳もいらなかった。
ソファの上で笑いながら、
あの頃の胸の高鳴りを、ふと思い出していました。
“『Love on the Spectrum』を通して、愛とは飾らず正直に向き合い、時間をかけて育てていくものだと改めて教えられた。”
この番組の意味をめぐっては、
教育なのか、搾取なのか、エンタメなのか――いろいろと言われています。
でも、私にとっては「学び」でした。
自閉症について学んだこと以上に、
「愛」について教えられた気がします。
愛は、過去の傷や孤独を埋めるためのものじゃない。
作り笑いの中で育つものでもない。
時間をかけて、正直さの中で、ゆっくり育つもの。
相手の良いところも、弱いところも、
まるごと受け入れる準備ができたときにこそ、
愛は静かに根を下ろす。
だから、まずは自分に正直であること。
そして、相手にも誠実であること。
その勇気さえあれば――
愛はきっと、あなたのもとにもやってくる。

ライター:プロフィール

インタビュー:條川純 (じょうかわじゅん)
日米両国で育った條川純は、インタビューでも独特の視点を披露する。彼女のモットーは、ハミングを通して、自分自身と他者への優しさと共感を広めること。