Humming♪

がんばりすぎるあなたへ。立ち止まるきっかけに気づくヒント

Written by
堀江知子(ほりえ ともこ)

 

香港から、ハミング編集部の知子が日常の中の小さな気づきをお届けしていきます。読み終えたあとに、今日の自分がもっと好きになれる。そんな時間になればうれしいです。

 
 

「私、まだできるかも」人生の折り返し地点での挑戦

 

香港での生活が始まって、1年がたちました。 こちらの朝は、外に出るだけで元気になれるエネルギーに満ちているんです。
ビクトリアハーバー沿いを吹き抜ける気持ちのいい海風。高層ビルの隙間から零れ落ちる、力強い太陽の光。都会の喧騒をすり抜けて、急な坂道を駆け上がると、目の前にはパッと香港の街並みを見渡せるランニングルートが広がります。

 

 

 

 

この景色を独り占めしながら駆け抜ける時間は、私にとって何よりの贅沢。

 

40代後半。人生の折り返し地点を過ぎて、ふとこれからの自分に想いをはせたとき、「もっと自分を試してみたい」「私、もしかしたらまだできるかも?」そんな、静かだけれど熱い欲求がむくむくと芽生えました。今回、私にとってのそれは「香港マラソン」という挑戦でした。

 

 

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いつもなら「完走できればそれでOK!」というお気楽なスタンス。それなのに、なぜか今回は「やるならちゃんとタイムを狙ってみたい」と自分に高いハードルを課していました。若い頃によくあった「やるなら、周りにちゃんと評価されるような数字を出さなきゃ」という気持ちが久しぶりにぐぐっと出てきたんです。

 

そこから、毎朝の5キロラン、週末のロングラン。ストイックに自分を追い込む日々は、充実しているようでいて、実はちょっとずつ「心の余裕」を削り取っていたのかもしれません。

 

 

突然訪れた、体からの「強制終了」

 

マラソン本番まで2か月後となった、ある日曜日のこと。

 

前日に25キロという大きな壁を乗り越え、自信がついていた私の右足に痛みが走りました。右の後ろ腿、大臀筋から腿の裏。さらには『ITバンド』と呼ばれる太ももの外側あたりまで……。下半身の一帯に広がる、鈍い痛み。それは、体からの明確な『ストップ』のサインでした。

 

「ええ!どうして今?」
「あと2か月しかないのに!!」

 

この焦りが、私をどんどん「みっともない姿」へと変えていきました。ランニングを休まなければならないストレスは、周囲への苛立ちに変わっていきます。
バスの窓から軽やかに走るランナーを見ては「うらやましい」気持ちを通り越して嫉妬したり、痛い足を引きずりながら走る私を軽々と追い越していく小学生ランナーに対して、大人げなく悔しがったり……。

 

 

 

 

「大好きだった週末のテニスも休んで、マラソンの練習にすべてを捧げてきたのに!」この執着が、私の心を支配していました。今、振り返ればそう気づくことができます。

 

「お母さん、最近走っていないね~」

 

心配して声をかけてくれる子どもにすら冷たい態度をとってしまい、つい数週間前に行ったマッサージ店の施術が悪かったのではないかと、誰かのせいにしようとする自分がいました。

 

「新しい挑戦をして人生をより豊かにしたい」そんな気持ちで始めたマラソンのトレーニングが、いつの間にか自分を追い詰めていたんです。

 

 

「手放す」ことで見えてきた、目の前の景色

 

まだ続く足の痛みと焦りの中でもがきながらも、私は一度、すべてをリセットすることにしました。ある意味、「あきらめ」に近い気持ちでした。

 

ちょうど友人や親戚が香港を訪ねてきてくれる時期と重なったこともあり、「もう、走ることを考えるのをやめよう」と、自分に許可を出しました。といっても、そう思えるようになるまでには数日間はかかりましたが…。

 

それまでは「走れない自分」を責めてばかりいました。でも、ランニングシューズをいったんしまい、代わりに今までサボっていた朝と晩のストレッチをていねいにやるようにしました。

 

朝ランに出かける代わりに家族との朝食の時間を大切にし、香港の街を「走る」のではなく「ゆっくりと歩いて」みました。朝ランを始めてからは、家族との朝食時間を犠牲にしていたことや、香港の景色を心に余裕をもって眺めることもできていなかった。そんなことに気づいたんです。久しぶりに家族とみんなで食べるごはんのおいしいことといったら!

 

 

 

 

こうやって「走らなければならない」という執着を手放した時、嬉しいことが起きました。

 

本番まで2週間を切った週末。祈るような気持ちで久しぶりにおそるおそる数キロ走ってみたところ、あんなに私を苦しめていた痛みが、ずいぶんと和らいでいたのです。以前のようにスピードは出せません。距離も、目標としていたものには程遠い。

 

でも、一歩踏み出すたびに感じる、地面を蹴っているあの感覚。

 

「あぁ、痛みもなく走れるって、なんて幸せなんだろう」

 

心の底から、そう思えたのです。今まで走ることは当たり前すぎて、痛みもなく丈夫な脚で走れることを「幸せ」と考えたことなんてありませんでした。
すれ違うランナーたちに、「私、また走れるようになったよ!」と大声で伝えたくなるような、子どもの時に感じたあの喜び。それはタイムを追い求めていた時には味わえなかったなんとも温かい気持ちでした。

 

 

 

 

立ち止まることは、自分を守ること

 

私たちはつい、「もっと上へ」「もっと速く」と自分を駆り立ててしまいます。

 

特に、昭和の時代に育ち責任感の強い女性たちは、がんばることが当たり前になりすぎて、体が発している「休んで」というサインを見落としがち。

 

もし今、あなたが何かに突き当たっていたり苦しいと感じるのなら、必死に握りしめていた拳をいったんゆるめてみるのもいいかもしれません。

 

私にいたっては、今回の香港マラソン、タイムはもう気にしません!完走できるかどうかも、当日のお楽しみとします。ただ、こうして健康で動ける体があること。そのことに感謝しながら、香港の街を思いっきり駆け抜けます!

 

今、がんばりすぎているあなたへ。今日だけは、自分に「お疲れ様」と言って、深呼吸をしてみてくださいね。

 

 

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター

民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。

2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。

出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。

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