Humming♪

子供だけでなく家族全員の幸せを考える。
悩める親の心を救う確かなメッセージ【保育士 てぃ先生のIt’s My Story】

保育園に勤めながら、その専門性を活かし、自身のSNSや講演活動などを通じて子育てや保育に役立つ情報を発信する現役保育士のてぃ先生。SNSの総フォロワー数は140万人を超え、子育て世代が抱えるさまざまな悩みを解決へと導いています。保育士を目指したきっかけや、子供たちとの生活で学ぶこと、「てぃ先生」としての活動に込める想いを聞きました。

子供を想うドーナツ作りを自分たちの手で。ママたちのフードロス救済プロジェクト

食べ残しや売れ残り、消費期限が近いなど、さまざまな理由でまだ食べられる食品が捨てられてしまうフードロス問題。食べ物の廃棄はもったいないだけでなく、地球環境にも悪影響をもたらしています。そんなフードロスを、ドーナツ作りで減らす取り組みをしているママたちがいるのをご存じでしょうか?


手作りの愛情たっぷりドーナツを届けたい

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金沢にある工房兼ショップ。ここで日々、手作りされている愛情たっぷりのドーナツ。「体にやさしくて、美味しい手作りのドーナツを子供にたくさん食べさせたい」「子供がうれしい、ママも楽しいアイデアを『ウフフ』『アハハ』と出しあって、子供に食べさせたい」ー-「ウフフドーナチュ」というキュートなネーミングからも、そのドーナツをほおばる子供たちの笑顔が浮かんできます。

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ここで働いているのは、全員が主婦。そしてオーナー、パティシエ、スタッフとそのほとんどが子育て中の現役ママさんたちだそう。

共働きの家庭が多くなり、かつてのようにママが手作りのおやつを準備することが難しくなっている昨今。そんななかでも、安心して口にできる美味しい手作りおやつを子供たちに届けたい、ママと子供の豊かな時間を作りたいー-そんな想いが軸になっています。ママ目線でのコンセプトを活かして、保存料無添加で毎日生地から手作り。そして、子育て中でもキャリアを活かして働きたいママたちに向けた、多様な働き方を応援する場所という側面もあります。


ウフフドーナチュが美味しい理由

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女性、特にママが働きやすい職場を作りたい!という熱い想いを持つ一人のママが中心となり生まれたウフフドーナチュ。今では、そんな想いに共感するママたちが集まって、毎日たくさんのドーナツを作っています。

ドーナツ作りに使われる材料は農家の新鮮卵や地元産中心の国産野菜など。保存料は無添加です。何よりもママたちが愛情をこめて作っている、まさに自分の子供たちに食べさせたいドーナツ。それはもう、美味しいに違いありません。


フードロス問題もママのアイデアで解決したい!

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ウフフドーナチュでは、ドーナツ作りを通してフードロス削減や地産地消にも積極的に取り組んでいるそう。これまでも、捨てられるはずの柚子の皮で作られたピール煮を使ったドーナツ、規格外のさつまいもなどを使ったドーナツを開発してきました。規格外の野菜や果物など、品質に問題はないにも関わらず廃棄されていた食材を積極的に商品化することで、捨てられる運命の野菜を救っているのです。

他にも地元食材を使った期間限定食堂の運営まで! ママたちのアイデアから生まれた『フードロスを減らそうプロジェクト』は、安心安全に暮らせる未来のためにー-そう、すべては子供たちへの愛情が原動力になっています。


軽井沢にも広がる、美味しくて楽しいドーナツの輪

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石川県金沢市に本店を構えるウフフドーナチュが、2021年8月に初の支店としてオープンした『ウフフドーナチュ旧軽井沢』。このたび一周年を迎えました。
実はこの支店、軽井沢に住みながらリモートでウフフで働くスタッフの「私も軽井沢で 美味しいドーナツとママたちの活躍の場所を作りたい」という強い思いから実現したそう。

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一周年を機に、より一層ウフフの世界観と商品を楽しんでもらいたいとショップのリニューアルも行われました。


規格外ケールを有効活用したお食事ドーナツ

フードロス削減に積極的なウフフドーナチュ。軽井沢店でも、ママの感性やスキルを活かしたドーナツを考案していますが、このたび発表された『フードロスを減らそうプロジェクト』第一弾にもご注目。

既定の品種でないために通常の流通には乗らないものの、美味しさや栄養価はまったく変わらないというケールを使った、オリジナルドーナツ!

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長野県でケール農家を営むママから届いた「販売できないケールを無駄にしたくない」という声。ー-軽井沢店初めてのオリジナルのベジタブルドーナツは、そんな相談から生まれました。

季節限定「軽井沢のケールドーナツ」に使われるケールは、農家が大切に育てた栄養満点のもの。そのケールをドーナツにすることで、たくさんの子供たちの元に届き、フードロスを少しでも減らそうというチャレンジです。農家が手間暇かけて育てた野菜。たくさんの人に美味しく食べてもらいたいですよね。

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信州の自然豊かな畑で大切に育てられたケール。生地の約25%と、たっぷり練り込まれた「軽井沢のケールドーナツ」は生地に混ぜ込むケールの量など細かい調整を何度も繰り返し、風味と生地がバランスよく味わえる自慢のレシピに。

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このやさしいグリーン。もちろん着色料を使っていないので、素材本来の自然な色です。ケールは、緑黄色野菜の王様といわれることもあるほど、高い栄養価で知られる食材。栄養たっぷりのまさにお食事系ドーナツ。おやつにはもちろん、朝食にもぴったりです。


こだわりのドーナツで子供たちに安心安全なおやつを。そして、規格外食材を積極的に使うことでフードロス問題の解決へもアプローチ。ドーナツ作りを通して、みんなが楽しく心地よく暮らせるアクションを起こしているママたちの活躍をご紹介しました。昔も今も、ママの手作りドーナツに込められた想いは同じですね。たくさんの愛情と子供たちを笑顔にするアイデアが詰まっています。

ウフフドーナチュ
https://ufufu-ufufu.com/

ウフフドーナチュ金沢本店
石川県金沢市久安2-463

ウフフドーナチュ旧軽井沢
長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢813-1​

自分の人生に対してオーナーシップを持つ。
それが他者理解につながるから【ゲスト 井上英之さん / 編集長インタビュー 02】

Humming 編集長 永野舞麻が、知りたいこと、気になること、会いたいひとにフォーカス。「スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版」共同発起人の井上英之さんのインタビュー第二回目は、井上さんが携わる“マイプロジェクト”について、そして社会起業家の育成についてお話を伺いました。


“やってみる機会”を自分にあげる

 

前回、社会を変えていくためには、個人個人がまず自分のことを知っていくことが大事、というお話を伺いました。そのために、いのさん(井上さん)が行っているのが「マイプロジェクト」という学びの手法ですね。これはどういったものなのでしょうか?

「最初は、慶応大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で学生たちに取り組んでもらっていたものでした。現在は、例えば、カタリバというNPOの主催で高校生向けに『全国高校生マイプロジェクトアワード』として展開するなど、若者たちをはじめ、地域の人たちやママたち、企業や自治体の人たちまで、全国に広がっています。『全国高校生マイプロアワード」では、今年は、366校、約17000人のエントリー、マイプロ実施者数は約7万人だったそうです。


まずは、何でもいいんです、自分がずっとやってみたかったこと、今、気になることをプロジェクトの形にしてもらう。身近にある気になることでいい。世の中や地域のことでもいい。それを“やってみる機会”を自分にあげる。

そのプロセスで、いろんな自分に出会い、気付きます。何より、他者にも出会っていきます。実際の経験のなかから、自分が本当に欲しい未来は、こういうことだったんだと気付いて、プロジェクトを変更することもよくあります。やってみるなかから、やり方も進化していきます。

『マイプロジェクト』は、プロジェクトそのものの成功だけが目的ではありません。プロジェクトを通じて、自己理解を深め、そこから他者や社会への理解をすすめ、自分の人生や社会に対して、地に足のついたオーナーシップを感じ取ってもらう。

前回もお話したとおり、プロジェクトを始めると、誰もが必ず転びます。そんなプロセスをメンバーで定期的にシェアしあいます。話をしてみると、必要なリソースや情報を、他の人が持っているかもしれないし、誰かの問いかけで、新しい理解や大切な気付きも生まれます。何より、そんなそれぞれの背景や紆余曲折を知ってくれている、大切な「場」が生まれます。

『ソーシャルイノベーション』は、自分の日常にその縮図があることに気付くことがとても大切です。どんな身近なことを扱ったプロジェクトでも、そこには“代表性”があるんですよね。たとえば親子関係に悩む人は、世界にすごい数いますよね。新しい方法を見つけたら、世界を変えられるかもしれない。変化の可能性って、僕たちの足元にあるんです」


inoue

「実現したい未来」に投資する考え方

― いのさんは、対学生だけでなく、「ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京」という団体で、社会起業家の育成も行っていますが、こちらについても詳しく教えてください。

「2003年頃に僕が始めたソーシャルベンチャー・パートナーズ(SVP)東京という団体では、社会にイノベーションを生み出そうというプロジェクトや団体に投資をしています。集まった人たちがパートナー(会員)として集まり、お金の投資に加えて、自分のスキルや経験を通じた“時間”の貢献をしています。そして、毎年、投資先を公募して決定をするのですが、その選考方法がちょっと変わっています。

まず、書類選考を通過した団体とは、SVPのメンバーのうち、この時点で応援したい人たちがチームとなって、2次選考に向けて一緒に準備を進めます。いったん、選考する側が味方になって、協働してみる。ここで、やってみるなかから互いの理解をすすめます。また、チームに入ったメンバーは、どうしたら、他のSVPのメンバーたちを動かすことができるか真剣に考えます。そして、その後の2次選考では、プレゼンの後、全メンバーによる投資先決定の投票をします。

その投票には2種類の票があります。『S票』と『V票』です。S票は、「投資してもいいと思うよ、でも、自分は、実際の協働チームには入れない」(お金だけ)という票で、V票は、「投資に賛成するし、協働チームに入ります」(お金とコミットメント)という意思表示です。そして、S票が何票あっても、一定数以上のV票がないと正式な投資先になれないことになっています。大切なことを動かすには、温度のある当事者が必要ですよね。この投票は、主観というものの存在を、客観的に扱っていく一つのやり方だと考えています。

この投資のいちばんのリターンは、客観情報に加えて、自分の感じていることも大切にする練習と、欲しい未来のために、自分自身や周囲の人たち、組織、社会のなかにすでにあるキャピタル(資産)の活かし方なのかもしれません」

inoue

― 欧米では投資家たちが、貧困などの社会的な課題解決を考えている団体に対して資金を提供する「インパクトインベストメント」が活発ですが、日本ではあまり盛んではない印象でした。けれど今のお話を聞いていると、しっかりと取り組んでいる方たちがいるのですね。

「はい、課題はどの国でも多いですが、日本でも育ちつつあると思っています。
少し前の話になりますが、ろうの子供たちのフリースクールを運営していたSVPの投資・協働先の団体が、学校法人として認可を受けて、私立の小学校を始める資金調達キャンペーンを行ったことがあります。必要な数千万が集まる素晴らしいプロジェクトになりました。

これをリードしていた、SVPのチームメンバーたちは、これを機に、その後に日本ファンドレイジング協会を立ち上げるなど、素晴らしい活躍をしています。制度や慣習の困難はあっても、それを一歩ずつ動かしている人たちは、増えていると実感しています」

― 素晴らしいですね。その一方で、社会的企業や活動する団体への投資は、一般の投資家側からみると「すぐに直接的なリターンを得ることは難しい」と考えられている面もあるようですが・・・。

「投資に対してリターンが少ないと、本当に言えるでしょうか。
まず、営利と非営利事業の違いは、大きくは一点だと思っています。直接の顧客に支払い能力があるかどうか。営利のビジネスですと、美味しいコーヒーを購入した人が、リターンとして直接にお金を支払う。それが、非営利が扱う多くの分野では、例えば、子どもや森林は、サービスを受ける顧客として、直接にお金を支払えない。その代わりに、彼らがハッピーになることで喜ぶ、『第二の顧客』と呼ばれる、寄付者や企業・財団、政府などがスポンサーになって支払う。森林が保全されるインパクトが、投資額に対して効果的であればよい投資となる。これって、視聴者がお金を払うわけではないテレビ局と、近いビジネスモデルですよね。インパクトでも資金を集めるという点では、一部のネット系の企業からヒントを学ぶ点があるのかもしれません」


自己理解は他者理解につながる

― いのさんはこれまでにもさまざまな活動をされてきましたが、『THE BIG ISSUE』のビッグイシュー基金で理事もされていたこともありますね。

「はい、この『ビッグイシュー』との関わりは、僕にとって貴重なものでした。これはホームレスの状態にある人たちが、路上での雑誌販売を通じて、自立に向かっていく事業です。彼らが、『ビッグイシュー』を駅前などで売ることで、2つの変化が始まります。

まずは経済的な収入です。毎月、一定数の雑誌が売れれば、部屋を借りる資金となり、住所が手に入ります。そうすれば、就職活動もぐっとしやすくなります。もう1つが人との関係性です。常連さんができたり、『いつもあなたがここで売ってるの見ているよ』と言ってくれる人が現れる。自分の人生に“目撃者”が誕生する。他者との関係性を失ってホームレスの状態になる人が多いのですが、世の中に居場所ができます。これは大変な変化です。

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一方で、これを他地域に展開するなかで、うまくいく場合とそうでない場合があります。例えば、彼らを“支援する“とか”助けるべき“対象と見て、支援者マインドで取り組む場合は、うまくいかないようです。逆に、彼らを『駅前に店舗を持っている経営者なんですよ』と、一人ひとりをみて協働する場合、よりよい結果に近づきます。

実際、販売員たちで集まってもらい、『うまくいった売り方』の情報交換をしてもらうー-などすると、互いに教え合い、学び合える。“自分のやり方”も見つかる。マニュアルどおりにやらせようとするよりも、力を発揮し始めることがあります」

― つまり・・・「マイプロジェクト」で意見を交換している学生さんと同じことのようですね。

「そうですね。ホームレスという状況は、さまざまな課題が重なって起きている超複合課題なので、一概には言えないところもあります。けれどインタビューの1回目でもお話したとおり、大統領でなくてもスーパーヒーローでなくても、一人ひとりがこの世界の貴重なリソースであることを理解する。一人ひとりの力は大きい。そのことは社会を大きく変えます」

― いのさんが、何度もおっしゃっている「自分を知ると社会が変わる」ということですね。

「はい。自己理解は他者理解につながります。たとえば“寂しい”という気持ちがあったとして、それに蓋をしないで、“寂しい”と感じている自分に少し寄り添ってみてください。

“転職したばかりで新しい環境で”、“しかも引っ越しもして、知らない町に住んでいるし・・・”と理解を進めて、“この状況ならそう感じるよね”って、自分を責める前に理解を示してみる。そうすると、同じような寂しさを持った人のことも理解できるし、つながることもできる。さらには、海外から移住した人たちの気持ち、職場における女性や、マイノリティの人の気持ちもぐっと高い画素数で見えるようになる。自分への理解を進めることで、自分自身の代表性や、世界とのつながりに気付くこともできるんです」

― 他者の気持ちを思いやるためには、自分から湧き上がるものを無視せず、きちんと見つめることが必要なんですね。2回にわたり、とても大切なお話をありがとうございました!

子供が自分のペースで成長できるように、私たちがしたいこと【Editor’s Letter vol.04】

Hummingの編集長 永野舞麻がカリフォルニアから配信する「Editor’s Letter 」。日々の暮らしで見つけたこと、感じたこと、考えたことをシェアします。

障がいをオープンにして温かな社会を。親子のお守りとして愛をつなぐマーク

「この子には障がいがあります」――まっすぐな言葉で障がいを持つことを伝えるタグ型マークが、多くの親子の心のよりどころになっています。このマークを制作したのは、障がい児の育児を支援する「パラリンビクス協会」代表理事の穐里明美(あきさとあけみ)さん。マークに込めた想い、そして一人ひとりが尊重される社会を目指して取り組んでいることとは?


誰もが気持ち良く出かけられるように

これまでに3000個(2021年12月末時点)をマークを必要とする家庭へ無料配布した。

「この子には障がいがありますマーク」を知っていますか? 制作者の穐里さんは、難聴や目の虹彩の色に特徴がある「ワーデンブルグ症候群」と「自閉症スペクトラム」という複雑な障がいを抱える長男・明ノ心君(9歳)と、次男(6歳)を育てています。2020年に会社を設立し、パラリンビクス協会の活動をスタート。このマークを制作・配布するほか、コロナ禍で孤立しがちなお母さんたちがつながりを感じられる場づくりに取り組んでいます。


「『この子には障がいがあります』には、『この子の周りに障害がある』という物理的な障害や、精神的な障壁を取り除きたいという意味を込めています。だから当事者だけでなく、周りの方々に知っていただかなければいけないと考えました。そこで、より多くの人が目にするクラウドファンディングを通して制作資金を集め、無料配布させていただきました。

この一連の取り組みを新聞やネットニュースに取り上げていただいたこともきっかけとなり、予想以上に問い合わせが殺到。1人につき3個までの配布で約730件のお申し込みがあり、今もお待ちいただいている方がいらっしゃいます。今後も継続配布できるように、個人や企業様に寄付を募るサイトをオープンしました」


実は制作者である穐里さん自身、マークを身に着けることに抵抗があったそう。


「自分で作ったものの、抵抗はありました。でも身に着けたことで得られた効果のほうが大きかったですし、皆さんのお役に立てたことを誇らしく感じます。マークを受け取ったお母さんたちから『お守りをつけているようで、外出しやすくなった』と言っていただけることが多いです。障がいがあることをオープンにすることで、お子さんに対する周囲の反応の変化だけでなく、お母さんたちがお子さんとの外出に対して前向きな気持ちになれたことはとても良かったなと感じています。今ではマークの存在がお母さんたちの口コミで広まり、時々地域ごとに集中的にお申し込みをいただくことも。今後も必要とされている親御さんの元に届けたいです」


発達障害や、グレーゾーン(発達障害の特性がいくつか見られるものの、診断基準をすべて満たさず、確定診断ができない状態)の人は外見からは分かりにくいケースも多く、その症状もさまざま。そのため、外出先でつらい経験や困難なシーンに直面することがあります。
明ノ心君には肢体不自由と呼ばれる症状もあり、身体を自由に動かすことができず、バギーを利用して出かけています。一見すると、障がいがあるようには見えない元気な男の子。駅のエレベーターで同乗していた年配の女性に「お子さんもう大きいんだから、歩いて階段で下りさせなさいよ」と言われた経験があるそう・・・。


2人のお子さんと過ごす時間はかけがえのないもの。

「そのときは驚きのあまり、何も言葉が出てきませんでした。息子は4歳でようやくつかまり立ちができるようになり、いまも長距離移動のときはバギーが必要です。数年前には息子をバギーに乗せ、満員電車に乗って通勤しなくてはならないこともあり、車両が混んでいるとバギーが入るのを嫌がられることもありましたし、私も周りの目が気になっていました。

そんなときに、息子が2歳の頃に病院でいただいた、障がいがあることを示すバッジの存在を思い出して。つけて出かけるようになると、特に公共機関を利用するときに、周りの反応ががらりと変わったんです。
バッジに気づいた方が『お手伝いできることはありますか?』と聞いてくださったり、『うちの孫も障害があってね・・・』など声をかけていただく機会が増えました。周りの方々が無関心なわけではないことがわかりましたし、バッジがコミュニケーションのきっかけを作ってくれたように思います。その後バッジが壊れてしまい、その頃には配布終了になっていて。新しいものを探しても理想的なものがなかったので、自分で作ることにしたんです」


外出先で障がいを持つ子供やその親に出会ったとき、どのように接するのが適切なのでしょう。


「私は子供のころから母に『国籍、障がいの有無にかかわらず、みんな同じ。だから特別視してはいけない』と教えられて育ちました。だから子供が生まれる前からその意識がありました。『障がいがある』と聞くと聞きにくいと感じることもあるかもしれませんが、私の場合は息子に対して無関心よりも、興味を持ってくださることのほうがうれしいので、いろいろと聞いてほしいです。

また、障がいを持つ子供たちは、外で突然大きな奇声を発することがあります。息子は楽しくなるとテンションがあがって大きな声をあげます。そういうときは、ただ温かく笑顔で見守ってほしいというのが願いです」


泣いたり、悩み続けるのはやめました。

明るく穏やかな笑顔で話す穐里さん。

一筋縄ではいかないのが子育て。子供の成長とともにさまざまな壁にぶつかり、時には投げ出したくなるような気持ちになることもあるのではないでしょうか。


「少し強い表現になりますが、私は悩まないと決めています。一見どん底にいるように思ってしまうときも、悩みの裏側にあるものは何かを考えるようにしています。そうすると必ず光が見えて、突破口が見つかる。今までもそうして得られたことがあります。こう考えられるようになったのことも、子供が生まれたことが大きなきっかけですね。正直なところ、まさか障がいを持つ子供が生まれるとは思ってもいませんでした。でも彼が私の元に来てくれたおかげで、今の私がいて、いろいろな出会いに恵まれています」


ハツラツとした声でこう話す穐里さんにも、ネガティブな思考からポジティブに物事を捉え直すことを覚えるまで、涙を流した日々がありました。


「長男は生まれてからずっと目が開かず、指でまぶたを上げてみると眼の色はグレー、眼球が左右に小刻みに揺れる眼振が見られました。インターネットで調べて、障がいの可能性を知り、生後2ヵ月頃に大学病院で検査を行うと『ワーデンブルグ症候群』であることが明らかに。その後に両耳難聴であることもわかり、病院からの帰り道では頭が真っ白になりました。

息子が生まれて日々喜びを感じていたけれど、障がいがあるとわかった瞬間に悲しみに包まれた。でも翌朝、隣にいる息子を見ると生まれたときから知っている、いつもの彼がいたんです。

そんな息子を見ていて、障がいがあると分かってから一週間のうちに、私の考え方は180度変わりました。『なぜ私は泣いているのか』『いつまで泣き続けるのか』。根本的なところに立ち戻って思考を巡らせると、悲しみの理由は息子ではなく私自身の問題であることに気づいたんです。『この子をこういう幼稚園に入れたかった』とか、『生まれる前に準備していた100冊の絵本を読み聞かせたかった』とか。息子は何も変わらないのに、私だけがネガティブな考えにとらわれていると思ったら、彼に対して申し訳ない気持ちになりました。それ以降、ただ息子がそばにいてくれることに心から喜びを感じるようになりました」


不安や悩みから解放され、親も子も笑い合う場を

パラリンビクス協会では、障がいを持つ子供たちと、その家族のためのオンラインコミュニティ「パラリンっ子ひろば」や、障がいを持つ子供向けの運動プログラム「パラリンビクス」のインストラクター養成授業や講座も開催。支え合いの輪が広がっています。


「『パラリンっ子ひろば』では月1回のペースで、zoomでの座談会を実施し、情報や意見交換を行っています。親御さんのなかには、3年以上経っても子供の障がいを受け入れられないと悩んでいる方もたくさんいらっしゃるので、座談会や登録者様向けに配信しているメールマガジンでは私がどのように受け入れたかなど、私自身の考え方をお伝えする機会が多いです。今後は理学療法士さんなどゲストをお呼びして、対談や悩み相談室を開催したいと思っています。

パラリンビクス体操のオンラインレッスンの様子。

『パラリンビクス』は、私自身の25年以上にわたるフィットネス経験と、障がい児育児の実体験から考案しました。現在50種類の動きがあって、すべてに動物や植物、乗り物など子供に馴染みやすいネーミングをつけています。それらの動きを組み合わせて、自宅で1分からできるエクササイズを紹介しています。

つい先日、『パラリンビクス音頭』が完成しました! 作曲は歌手の愛田健二さん、作詞は公募により選定。Psycho le Cému(サイコ・ル・シェイム)というヴィジュアル系バンドのドラマー、YURAサマにボーカルを担当していただきました。実は彼は、私が代表を務めるフィットネスインストラクター養成校『Luce』の卒業生。そんなご縁もあり、『楽しいことができなくなるんじゃないか』という、障がいの暗く思われがちなイメージを払拭するためコラボレーションを試みました」


親子で“楽しい”という経験をしてほしいという穐里さん。プログラムを通して、家族が笑顔を交わす時間を生み出しています。


「息子は重度の知的障害があるので踊れません。でも私が踊っている様子を見て笑顔を見せてくれます。そういう効果があってもいいのではないかと感じています。パラリンビクス音頭をきっかけに、障がい児の育児をするなかで孤独を感じている親御さんに『ひとりじゃないんだよ』というメッセージを伝えたいです」


良いところに目を向けると、心にかかった雲が晴れる

物事を前向きにとらえることで、自然と笑顔も増える。

子育て中に落ち込んだり、不安になることは誰にでもあるはず。日々の生活にある小さな幸せに気づくことができれば、目の前に広がる景色が大きく変わります。


「息子は耳が聞こえないので、こちらは表情や身振り手振りで感情を伝えます。だから、なるべく悲しい顔は見せたくない。『あなたが生きる場所はこんなにハッピーな場所だよ』と伝えたい気持ちから、たとえ心のなかが曇っている日でも、泣きながらでも、怒るときをのぞいて、基本的には笑顔でいるように意識しています。

どうしても健常のお子さんと我が子を比べてしまい、そのたびに落ち込んでしまう、というお母さんからの声もいただきます。障がいの有無に関わらず、他人と比べてしまうことってよくあると思うんです。私も息子と療育に通っていたころ、息子と歳の近い子供を見て『あの子のほうがあんなことができている』と、ついつい比べてしまうことがありました。

でも、できる・できないは重要ではなくて、存在しているだけでパーフェクト。パラリンビクスでも、できないところに目を向けず、できることに目を向けて根詰めすぎないようにとお母さんたちに伝えています。息子の良いところだけを見るように心がけたら『なんてできる子なんだ!』と誇らしく感じることばかりです(笑)」


“障害”がなくなる未来へ

外出時だけでなく、障がいを持つ子供とその家族が直面する課題はほかにもあります。


「療育施設は必要な場所だと感じる一方で、予約が取りづらかったり、施設内での活動時間は15分程度なのに対して往復2時間かかってしまうなどの通いづらさを感じた経験があります。民間の療育施設は1回¥10,000と利用料が高く、障がい児用のプールは30分¥6,000で、週3回通うことを勧められても、それでは手が届かないと諦めたことも。コロナ禍で閉鎖している施設もありますし、そういう面でも、パラリンビクスをおうち療育として少しでも多くの親子に利用していただけたらうれしいです。

それから、家族間においてもさまざまな課題はあると思います。昨今、障がいを持つ子の健常の兄弟姉妹は『きょうだい児』とも呼ばれ、きょうだい児特有の悩みや葛藤を抱えやすいといわれています。我が家は2人の子供がいますが、長男に付きっきりにならないように注意して、それぞれに関わる時間を作るようにしています。まだ次男がこの先どう成長していくのかわかりませんが、一つだけ伝えたいのは『お兄ちゃんは決して弱い存在ではなく、一人の人間として尊敬すべき存在である』ということ。もちろん助けてもらうことはあるかもしれないけれど、次男にも彼の人生がある。お兄ちゃんを一生みてほしいと言うつもりはありません。

今の夢は息子のためのグループホームを立ち上げ、息子が得意なことが活かせるような就労支援をすること。私が死ぬまでに、息子が生きる世界をより良いものにできるよう注力したいです。障がい児育児って特別なことと思われがちですが、私のなかでは、男の子・女の子・障がい児くらいの感覚でとらえています。次男はお兄ちゃんが隣で奇声を発していても、気にせずテレビを観ています(笑)。そんなふうに、すべてのひとが当たり前に混ざり合える世の中になってほしいです」


SDGsは「誰一人取り残さない」を理念に、持続可能な開発目標が策定されました。「この子には障がいがありますマーク」が必要のない温かい社会のために手を取り合い、誰もが安心できる環境づくりに取り組んでいきたいですね。


相手を傷つけない話し方。それは、驚くべき魔法
【Editor’s Letter vol.03】

Hummingの編集長 永野舞麻がカリフォルニアから配信する「Editor’s Letter 」。日々の暮らしで見つけたこと、感じたこと、考えたことをシェアします。

感動の子育て。教え込むより導く、
という方法【Editor’s Letter vol.02】

Hummingの編集長 永野舞麻がカリフォルニアから配信する「Editor’s Letter 」。日々の暮らしで見つけたこと、感じたこと、考えたことをシェアします。