トラウマボンドとは?モラハラやDVから抜け出せない理由と対処法
「なぜ、あんな人なのに離れられないんだろう?」
そう思ったことはありませんか?
恋人や配偶者からのモラハラやDVに苦しんでいるのに、なぜか離れられない。
それには「トラウマボンド(Trauma Bond)」という深い心理的な結びつきが関係している可能性があります。
この記事では、トラウマボンドとは何か、その原因とサイン、そして断ち切る方法までを、心理学の知見とともに詳しく解説します。
Contents
トラウマボンドとは?
トラウマボンドとは、暴力やモラハラなどの虐待行為を繰り返す相手に対して、強い依存や愛着を感じてしまう状態を指します。
最初は優しかった相手が突然暴力的になり、また優しくなる。
この「愛と恐怖のサイクル」を繰り返すことで、脳が混乱し、「離れたいのに離れられない」状態になります。
こんな関係は要注意|トラウマボンドの兆候
トラウマボンドが形成されていると、以下のような特徴が見られることがあります。
1. 虐待と優しさが繰り返される
暴言や無視、威圧的な態度などで精神的に追い詰められたあと、急に優しい言葉をかけられたり、プレゼントを渡されることがあります。
激しい言動のあとに突然見せる優しさは、強く心に残り、「今度こそ相手が変わってくれるかもしれない」と感じさせます。
相手が変わる可能性にすがる気持ちが積み重なることで、関係から抜け出すのがどんどん難しくなっていくのです。
2. 相手に支配されている感覚がある
一緒にいると、相手の顔色ばかり気にしてしまう。
自分の意思で行動できなくなってくる。
このように相手に支配されているように感じる関係も、トラウマボンドの特徴のひとつです。
3. 離れようとすると不安でいっぱいになる
たとえひどいことをされても、離れようとすると「でもまだ愛しているかも」「一人になるのが怖い」と感じてしまうことがあります。
これは、相手に対する感情的依存が深まっているサインです。
なぜ離れられないの?トラウマボンドが起こる仕組み
生理的メカニズム
暴言や威圧的な態度を受けると、体は「危険だ」と感じて緊張状態になり、心拍が上がり、心は不安や恐怖でいっぱいになるでしょう。
そんな不安な状態の直後に、相手が急に優しく声をかけてきたり、謝ったりすると、強い安心感や安堵を覚えることがあります。
この落差によって、脳はその優しさを特別なものだと錯覚し、さらに強く優しさを求めるようになっていきます。
その結果、たとえ再び傷つけられても、「また優しくしてくれるかもしれない」という期待が生まれ、関係を断ち切る判断を鈍らせてしまうのです。
こうして、虐待と優しさが交互に繰り返されることで、依存が強まり、トラウマボンドはより深く根づいてしまうのです。
心理的背景
子どもの頃に親から虐待や無視をされて育った人は、大人になってからも、支配されたり傷つけられたりする関係を無意識に選んでしまうことがあります。
苦しいはずの関係でも、どこかで「これが普通」と感じてしまい、安心してしまうことがあるのです。
トラウマ関係から抜け出す方法|回復へのステップ
トラウマボンドを断ち切るには、ただ物理的に離れるだけでは不十分です。
心の中に根づいた「離れられない理由」を少しずつ解きほぐしていくことが、真の回復につながります。
ここでは、回復に向かうための具体的なステップを4つ紹介します。
1. 関係の真実を受け入れる
まずは、「これは普通の恋愛ではない」と認めることから始めましょう。
暴言や無視、コントロールされるような言動が繰り返されている関係は、本来の健全な人間関係とは言えません。
しかし、優しかった頃の記憶が残っていたり、「自分にも悪いところがあるのでは」と思っていたりすると、現実を直視するのが難しくなることがあります。
そんなときは、日記を書くことが有効です。
その日にあったこと、相手の言葉、自分の気持ちを簡単でいいので書き残してみてください。
時間をおいて見直してみると「あれ?これっておかしいかも」と気づくことがあります。
第三者の視点で見ることで、自分の置かれている状況を客観的に見つめ直すきっかけになります。
2. 自分を責めない
「自分が悪いからこんなふうに扱われるのかも」と思ってしまうことはありませんか?
理不尽な言動を受け続けていると、次第に「自分さえ我慢すればうまくいくのでは」「相手が怒るのは自分のせいだ」と、自分を責める考え方が癖になってしまうことがあります。
しかし、虐待や支配的な態度は、どんな理由があっても正当化されるものではありません。
あなたが何か失敗したとしても、それは暴言を浴びせられたり、人格を否定されたりしていい理由にはなりません。
どんなときも、あなたには尊厳があり、守られる権利があります。
そんなときは、自分を責める代わりに、自分自身に優しく声をかけてみましょう。
たとえば、「自分は悪くない」「自分は大切に扱われていい存在だ」といった言葉を、心の中で何度も繰り返します。
最初は違和感があっても、続けるうちに少しずつ自己否定の思考がやわらいでいくことがあります。
3. 完全に連絡を断つ
トラウマボンドから回復するうえで、相手との連絡を断つことは非常に重要です。
相手とやり取りを続けていると、優しい言葉や謝罪があるたびに心が揺れてしまい、関係に引き戻されてしまう可能性が高くなります。
まずは、LINEやSNS、電話など、あらゆる連絡手段をブロック・削除することを検討してみてください。
必要があれば自身の電話番号を変更するのもひとつの方法です。
また、相手の投稿やアカウントを見ないようにするだけでも、心の動揺を減らすことができます。
もし同居している場合や、子どものことで連絡をとる必要がある場合は、信頼できる第三者や専門家を介してやり取りする方法を考えてみましょう。
自治体の相談窓口や、女性支援団体、弁護士、カウンセラーなどが力になってくれることもあります。
しかし、連絡を断つのは簡単なことではありません。
「まだつながっていたい」と感じてしまう自分を責める必要はありません。
ただ少しずつ、自分の心と生活を守る選択肢を増やしていくことが、回復への第一歩になります。
4. 専門家のサポートを受ける
トラウマボンドのように深く結びついた関係から抜け出すのは、一人の力だけでは難しいことがあります。
相手と距離を取ろうとするたびに迷いが生じたり、「自分が悪いのでは?」と自責の念にとらわれたりすることもあるでしょう。
そんなときは、ためらわずに心理カウンセラーや臨床心理士など、専門家の力を借りましょう。
トラウマや虐待に詳しい専門家は、どのような関係のパターンに巻き込まれやすいのかを理解し、抜け出すための道筋を示してくれます。
また、サポートを受ける中で、自分にとって安全な人間関係の築き方や、心の境界線(バウンダリー)を守るスキルも少しずつ身についていきます。
心の傷は時間とともに癒えていくものです。
安心して話せる場を持つことが、回復への大きな一歩につながります。
サポートを受けられる窓口(日本国内)
■ DV相談プラス(内閣府)
電話番号:0120-279-889(24時間対応、通話料無料)
チャット相談:正午~午後10時(10か国語対応)
■ よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
電話番号:0120-279-338(24時間対応、通話料無料)
女性支援専門ライン:ガイダンス後に「3」を選択
詳細:https://www.since2011.net/yorisoi/n3/
■ 女性の人権ホットライン(法務省)
電話番号:0570-070-810(平日8:30~17:15)
詳細:https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken108.html
■ 女性相談支援センター全国共通ダイヤル(厚生労働省)
電話番号:#8778(はなそう なやみ)
詳細:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40452.html
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よくある質問(FAQ)
Q:トラウマボンドと共依存の違いは何ですか?
A:共依存は「相手を助けることで自分の価値を感じる」という相互依存的な関係ですが、トラウマボンドは「加害と優しさの繰り返しによって形成される一方的な執着関係」です。
両者は似ている部分もありますが、関係性の力のバランスに大きな違いがあります。
Q:トラウマボンドは恋愛以外でも起こりますか?
A:はい、恋愛関係に限らず、親子・職場・友人関係などでも起こる可能性があります。
特に、上下関係や依存が強い関係性では、トラウマボンドが生じやすい傾向があります。
Q:トラウマボンドから回復するまでには、どのくらいの時間がかかりますか?
A:回復には個人差がありますが、数ヶ月から数年にわたることも珍しくありません。
時間をかけて自己理解を深め、安心できる人間関係を築いていくことで、少しずつ執着や自責の感情が和らいでいきます。
Q:相手と離れる決意をしても不安でいっぱいです。
A:そう感じるのは自然なことです。
「本当にこれでよかったのか」「一人でやっていけるだろうか」といった気持ちが湧いてくるのは、関係が長く続いているほど当然の反応です。
ただ、その不安な気持ちに流されて元の関係に戻るのではなく、不安と向き合い、安心できる方法を少しずつ身につけていくことが回復への鍵になります。
まとめ|「離れられない」は、あなたのせいじゃない
トラウマボンドは、誰にでも起こり得る心理的メカニズムです。
あなたが今、苦しいのは「弱いから」ではありません。
それだけ深く人を信じたり、愛したり、傷ついたりした経験があったという証です。
そして、その苦しみから抜け出す道は必ずあります。
焦らずにまずは、一歩踏み出す勇気を持ってみましょう。
