原材料から生産までスウェーデンにこだわった、地産地消のサステナブルな家具
ストックホルム在住のコーディネーター 大迫美樹さんが、北欧発のエシカルトピックスをレポート。SDGs達成度の世界ランキングで、毎年トップ3入りを果たす環境先進国スウェーデン。一人ひとりの環境への意識が高まるにつれ、最近ではより一歩進んだ取り組みも増えてきています。今回は、そのなかで新たな試みとして話題となっているサステナブルな家具ブランドをご紹介します。

スウェーデン産パイン、またはオーク材を使用したMia Culinデザインのソファ(Sofa V.MC.01)57,000 SEK〜、ゴットランド島のライムストーンを使ったLinn Fredlundデザインのコーヒーテーブル(Cofee table V.LF.02)22,900 SEK〜 /ともにVERK
環境のためのさまざまな工夫と北欧らしい洗練されたデザイン
サステナブルな取り組みに、真摯に向き合うことが当然となりつつあるスウェーデンでは、地産地消に対する関心が年々高まっています。そんななか、サステナブル家具ブランド「VERK(ヴァルク)」が今年の2月にデビューし、スウェーデン人たちから熱い視線が注がれています。
気候への影響を最小限に抑えるために、使用する原材料から生産までを徹底して ”Made in Sweden” を追求しているというヴァルク。地球に優しいのに、重要なポイントであるデザイン性と機能性にも優れているというから、さすがデザイン大国のスウェーデンブランドです。

David Ericssonがデザインしたダイニングテーブルとチェア。スウェーデン産オークか白樺が選べる。テーブル(Table V.DE.02)22,500 SEK〜 、チェア( Chair V.DE.01)3,200 SEK〜/ともにVERK
実際にファーストコレクションをチェックしに、ストックホルムにあるヴァルクのショールームを訪れてみました。
家具にふれてみると、木の感触はなめらかで柔らかく、ソファやチェアの座り心地も抜群。6人のデザイナーが手がけたダイニングテーブルやチェア、シェルフなど、どれも美しく、タイムレスなデザインと凝ったディテールに思わずうっとり。心落ち着くシンプルな佇まいと温かみを感じる有機的なフォルムは、日本のお部屋にもマッチしそうですね。

Joacim Wahlströmデザインのアームチェア(Armchair V.JW.01)29,500 SEK〜/VERK
ソファやアームチェアなどに使われているレザーは、使うほどに色の深みや艶、柔らかさを増して、変化が楽しめるそう。
通常レザーのなめし加工には重金属系の薬品が多く使われますが、ヴァルクのレザーは環境負荷の少ない植物性のタンニンを使用しています。もちろん家具に使われている木材、レザー、ウール、石はすべてスウェーデン産。長く使ってもらえるように品質にも重視。
また、こだわったものの一つというソファのクッションの中身は、国産羊毛で作られたニードルフェルトを採用し、中身には弾力性のあるテクセルシープウールを詰めています。家具表面の仕上げも、国産の亜麻仁油と蜜蝋を使用という徹底ぶりにブランドの強い信念を感じます。


Gustav Winthデザインのフラワーベース(VASE V.GW.01 Small )3,000 SEK、(Big) 4,200 SEK/ともにVARK
家具以外にも素敵なガラスの花器や手触りのいいウールのブランケットがあり、インテリアのアクセントとしてもおすすめ。
花器のガラスは有毒物質を排出させない方法で制作され、ストックホルムにある野外博物館Skansen(スカンセン)内のガラス工房で一つひとつ手吹きで作られているところもポイント。
エシカルなアクションを起こす第一歩に、このようなインテリア小物から暮らしに取り入れてみるのもよさそうです。

ローカルでの生産がサステナブルな未来への鍵
家具製造に必要な木材や鉄鋼、レザー、石などの原材料はすべてスウェーデン国内にあるにもかかわらず、それらはほぼ国外へ輸出されているのだそう。そこに目をつけたのが、ヴァルクの創業者でクリエイティブディレクターのSimon Anund(シモン・アーヌンド)さん。しかし“国産”をこだわり抜くことは大きなチャレンジだったといいます。
日本では今も日本産のプロダクトをあちこちで見かけますが、スウェーデンで国産品に出合う機会はとても少ない印象。というのも、税金や物価が高いこの国では、製造業を近隣のヨーロッパ他国に頼っているのが現状だからです。
まず直面した問題が、国産のネジ。
スウェーデン製のネジが存在しなかったため、国内の精密機械会社と協力をして、ヴァルクオリジナルのスウェーデン鋼製ネジを開発することに成功。このことは、小さいながらもまだ存在するスウェーデンの製造業に、大きな変化や希望を与えると反響を呼んでいるそう。
9月にオープンしたVrakmuseet(難破船博物館)では、レストランやホールでヴァルクの椅子が使われています。
しかしヴァルクには、まだいくつかの課題が残されています。
たとえば、国内に紡績工場が存在しないため、国産のミシン糸が手に入らないこと。さらに国産のファスナーも見つかっていません。しかし彼らの試みに賛同したサプライヤーや業界の人々から、ブランド立ち上げ後にたくさんのアドバイスや連絡をもらったといいます。将来的には独自の糸と生地を生産する方法が見つかるかもしれないとのこと。ミシン糸とファスナー、2つの課題も解決される日は近そうで、今後がますます楽しみですね。

スウェーデンのパイン材を使ったLinn Fredlundデザインのベンチ(BenchV.LF.01) 9,500 SEK~/VERK
ヴァルクの素晴らしさは、ただ家具を作るだけに至らず、スウェーデン国内の産業を改善・支援して、将来的には国産品の需要を伸ばすことを目標としていること。
「多くの人たちが『スウェーデン家具』をどこでどのように作るのかについて、考えるきっかけとなってほしい」とシモンさん。
作り手がローカルでの制作にこだわり、私たちが普段の暮らしのなかでローカル製のデザインを選択する。ちょっとしたアクション一つで、誰もが地球環境の維持に大きく貢献できるのです。そしてその先には、たくさんの国産プロダクトに出合える未来が待っているかも・・・と想像するとワクワクしてしまいます。
ヴァルクはこれからも環境に優しい新時代の家具を作るため、スウェーデンで生産されたさまざまな原材料を探し続けるといいます。サステナブルな未来の実現のために、ヴァルクの挑戦は今後も続いていきます。
VERK
https://verk.se
Profile
大迫美樹(おおさこみき)
コーディネーター・ライター。東京都出身。大学を卒業後、アパレル会社や広告制作会社勤務を経て、2007年スウェーデンのストックホルムへ移住。現在はフリーランスで雑誌や書籍、広告、日本企業の仕事を中心にコーディネート全般、執筆に携わる。
Instagram @mikikosmic