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篠田桃紅さんの言葉が教えてくれるもの【小泉里子 / 未来に続くBOOKリスト vol.2】

あなたの本棚には、これからの人生で何度も読み返したい本が何冊ありますか? モデル 小泉里子さんの連載エッセイ「未来に続くBOOKリスト」。読書好きの里子さんが、出合ってきた本のなかから“ずっと本棚に置いておきたい本”をセレクトしてご紹介します。

小泉里子

BOOK LIST_02

『これでおしまい』

ジャンル=エッセー・随筆 篠田桃紅 著/講談社


まさに「これでおしまい」と言わんばかりに、今年の3月に107歳でお亡くなりになった篠田桃紅さん。私が桃紅さんを知ったのは、『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』という本でした。当時、習っていたテーブルコーディネートの先生に勧められたと思います。最初に手にしたとき、103歳になっても初めてわかることもあるのかと思いましたよ。

私は、“時間”というものがすごく好きで。なんでも時間がかかっていれば、それだけの深みを感じてしまうのです。趣味にしろ、料理にしろ、人間関係にしろ、時間をかけた分だけの知識や旨味、信頼関係。
時に、かけた時間に裏切られることもあるけど、時間がかかっていれば、それはそれで納得です。そして、年齢も同じ。年を重ねれば重ねるほどに深みがあると、“歳をとること”に私は憧れます。

なので103歳という年齢に、まず心を掴まれました。一世紀をも生きている女性の考え、言葉は、私がまだまだ知りうることのない次元で、共感なんて恐れ多いのに、なぜか無性に面白く、桃紅ワールドへどんどん引き込まれました。


そして今回ご紹介するのが、生前最後の本になってしまった『これでおしまい』。
この一言は、生涯を自分の思いのまま自由にやり尽くし、死を恐れず淡々と旅立って逝ったような、そんな篠田桃紅さんらしい人となりを感じる言葉で、本を開かずとも私は、ただそれだけで桃紅さんを存分に感じられました。
・・・って、開かなかったわけではないですけど(笑)。

この本は、「ことば篇」と「人生篇」で構成されていて、「ことば篇」では桃紅節が、「人生篇」では桃紅さんの生い立ちについてが書かれています。たくさん出版されている桃紅本のなかで、桃紅さんが何をし、何を考えてきたかを知るには、まずこの本から読んでみても良いかと思いました。


幼き頃から私見を持っていた桃紅さんの少女時代、自分の意志を貫こうとするあまり、大人の言うことは聞かなったと綴ってあり、図々しくも共感しました。
似ているといってはおこがましいけど、私もかなりの頑固者で。そして団体行動が苦手なのも似ていて、修学旅行やクラス対抗なんてものも得意ではなかった。自分の意にそぐわないと納得がいかず、よく先生にも反抗していました。また部活は陸上部で種目は走り高跳び、一人で黙々と練習し、自分のタイミングで走り出せるこの種目は性に合ってる気がしていました。
67歳も年上の先輩に、妙に親近感が湧いてしまった私は、次はどんな言葉が出てくるのだろうとページをめくる毎にワクワクしました。


この本で私が好きな一説は

芥川龍之介は「運命は性格の中にある」と言った。運命が性格をつくるんじゃない、あなたの性格のなかに運命があるのよ。

持っているものに感謝すればいいのに、持っているものは当然で、無いものを欲しがる。
賢い人は、達観して無いものねだりをしないんだと思う。自分にはこの程度なんだと思って。

私には、芥川龍之介の言葉じゃなく、桃紅さんの言葉としてインプットされました。
そして「欲しい欲しいは足りないの裏返し。足らん足らんは感謝が足らん」と主人がよく言っているのですが、まさにそのとおり。無い無いと思うより、これで十分と思って生きる方が好きな私は、「この程度」という言葉がすごく前向きで好きでした。

読み終えて、新たな篠田桃紅さんの言葉とは、もう出会えないんだなと思うと寂しくなりますが、桃紅さんの言葉や作品は、これからもたくさんの人の手に触れ、心に触れ、そしてこんなふうに生きた女性がいるということが、この先も生き続ける。
桃紅さんの言う、孤独に生まれ、孤独に生き、孤独に死んでいくは、一見寂しくも聞こえるけど、なんだか強く美しく感じずにはいられません。


『これでおしまい』
2021年3月1日に107歳でこの世を去った、世界的美術家 篠田桃紅の最後の著作。人生哲学を短い言葉で伝える「ことば篇」、インタビューがまとめられた「人生篇」で構成されている。自分らしく人生を送るための考え方のヒントと、そして勇気を与えてくれる一冊。


『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』
100歳を超えても、人生は自分のものにできる。100歳を超えたから見える世界があるのだということを、篠田桃紅ならではの、強く、深く、わかりやすい言葉で綴られたエッセイ。(幻冬舎刊)


小泉里子


Profile
小泉里子(こいずみさとこ)
15 歳でモデルデビュー。数々のファッション誌で表紙モデルを務め、絶大な人気を誇り、広告やテレビ番組でも活躍。着こなすファッションはもちろん、ナチュラルでポジティブな生き方が同世代の熱い支持を得ている。2021年2月には第1子となる男児を出産し、同5月より生活の拠点をドバイに移す。ドバイでの生活や子育てにもさらに注目が集まっている。
http://tencarat-plume.jp/
Instagram @satokokoizum1


TEXT = 小泉里子
PHOTO = 取田和衣

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