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藍で染める《 Waiting for Others − 青の環 》が生まれるまで 【現代美術家 山本愛子 / 植物と私が語るときvol.2】

染色を中心に自然素材や廃材を使い、ものの持つ土着性や記憶の在り処をテーマとした作品を制作する現代美術家、山本愛子さんの連載がスタート!  草木染の研究にいそしむ山本さんが、さまざまな土地を訪れ、そこで出合った植物についてつづっていきます。第2回目は北海道美瑛町よりお届けします。


北海道から藍の魅力を発信!

前回のコラムでは、私のお庭で育てている「藍」のお話でした。その藍がはるばる旅をして新たな文化を育みはじめています。

2022年7月7日、明治40年から続く染物屋の水野染工場が手掛ける、北海道美瑛町に「藍染結の杜(あいぞめゆいのもり)」という藍の魅力を発信する文化複合施設がオープンしました。この施設では、藍染め体験にはじまり、美瑛で栽培した藍の葉を使ったお茶やクッキーなどを楽しめます。プレオープンには地域の方々や関係者、約150人が来館し賑わいました。

〈写真左上から時計回り〉藍染結の杜外観、藍クッキー付き美瑛牛乳ソフト、藍染した布、藍とドライフルーツのスコーン

この藍染結の杜で栽培されている藍の元の種が、私のお庭の藍なのです。小さな庭から生まれた藍が、美瑛町の広大な畑で育まれている様子をみて、とても感動しました。気候的に本州でしか育たないのではと勝手に思っていましたが、北海道の気候でも元気に育っていました。

美瑛で育つ藍畑

そもそも何故、私の藍をお譲りする経緯になったかというと・・・水野染工場の東京店舗で、藝大生時代にアルバイトをしていたのがきっかけなのです。その後私はアルバイトを卒業して中国杭州に行くのですが、帰国してしばらく経った頃に「藍染結の杜」の構想段階でお声がけいただきました。それが丸2年前です。現在は、施設全体のコンセプト作りの協働、アート作品の提案・制作・設置、藍の教科書の監修をさせていただくなど、より専門的な立場で関わっています。アーティストとしての立場を尊重されたうえで、企業と協働させていただけることは私にとって大変ありがたく貴重なことです。きっと私だけではなく、現代のアーティストにとっての大切な一つの事例なのだろうと思いながら、この仕事に携わっています。

私が手掛けたコンセプトボード

オープンと同時に、施設内の丘に設置した作品《 Waiting for Others − 青の環 》をご紹介します。施設の裏には、絶景が一望できる丘があるのですが、その魅力はなかなか気付かれず、上まで登る人が少ないことが課題でした。そこで丘にのぼるきっかけを作りたいと社長からご相談をいただき、丘のてっぺんに「座れる作品」を作りたいです!と提案をして生まれた作品です。

《 Waiting for Others − 青の環 》完成。丘の風景と作品

丘の斜面に合わせて段上に設置した、循環を表す円形の椅子。座面の木材は藍染めです。パーツごとに取り外せるように設計し、パーツの一つひとつを美瑛町内の方々と一緒に藍染めしました。そして50名以上の方と一緒に染めた共同作品が、美瑛の丘に生まれました。タイトルの《 Waiting for Others − 青の環 》は、この椅子に座り、他者(自然)を待つ場所になってほしいという願いを込めて名付けられました。

椅子の木材を美瑛の人たちと染める様子

染めた木材を設置する様子

藍を栽培し、染めて、食べて、飲んで。座って景色を眺め、自然との出合いを待つ。
藍を全身で味わえるこの場所が、これから多くの人に愛される場所になることを願っています。

美しく染まった木目


藍染結の杜
https://biei.blue

Profile
山本愛子
(やまもとあいこ)
現代美術家。1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員として中国で研修。国内外のレジデンスや展覧会に参加。自身が畑で育てた植物や、国内外から収集した植物を用いて染料をつくり、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。主な展示に2021年「Under 35 2021」BankART KAIKO(横浜)、2019年「Pathos of Things」宝蔵巌国際芸術村(台北)、「交叉域」蘇州金鶏湖美術館(蘇州)など。
https://www.aikoyamamoto.net/
Instagram @aiko.yamamoto_


PHOTO = 山本愛子
TEXT = 山本愛子

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