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小泉里子の選択“。今まで”に縛られない生き方

私たちを惹きつける特別な魅力を持つひとは、誰にも負けない“個性”という輝きを放っています。各界で活躍し続けている彼女や彼に、“自分らしく”を大切にする生き方についてインタビュー。そのオリジナルなスタイルの秘密を探ります。ここから3回にわたり、現在ドバイ在住のモデル 小泉里子さんをフィーチャー。

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「演じるのではなく、自分自身がそのイメージに近づいていく」

15歳でモデルデビューし、その後2018年まで『Oggi』『CLASSY.』そして『Domani』と表紙モデルを歴任してきた小泉さん。ときには強くしなやかに、ときには可憐に優しく、長年にわたってさまざまな女性像を表現してきました。

― モデルという仕事に就く以前、ちなみにどんな子供時代を過ごされていたのでしょうか? そしてモデルを始めたころの気持ちは? 

「スカートなんて絶対にはかなかったし、スポーツ刈りにしたいと思っていたくらいで、男の子みたいな女の子でした。しかもかなり気が強くて。5人きょうだいの長女ということもあり、面倒見は良かったと思います。

中学生になるくらいから、ちょっとませ始めましたね(笑)。アイドルや歌手に憧れて、鏡の前で舞台に上がる妄想をしたり。そんなころに、15歳で『CanCam』のモデルをやらせていただくことになって。モデルの仕事とは何なのか・・・よくわからないままで始めて、先輩モデルの姿を目で追いながらやっていました。

最初のターニングポイントは、雑誌の企画で髪を切ったこと。それで反響をいただいて、大きなページにも使っていただけるようになりました。髪を切っただけなのに、こんな変化が起こるんだなぁという驚きがありましたね。そこから、いつか雑誌の表紙を飾ってみたいなと思うようになり、『私がこの雑誌の表紙だったら』と妄想する毎日でした(笑)」

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トップス¥11,000、パンツ¥25,300/ともにアストラット(アストラット 新宿店) ミュール¥18,700/ユナイテッドアローズ(ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店) イヤーカフ/スタイリスト私物

その後、雑誌の表紙モデルとして大活躍が続きます。いつ書店に行っても、小泉さんが表紙を飾る雑誌が並んでいる。キャリアウーマンな里子、デートファッションの里子、モードをまとった里子・・・そのスタイルは起用されていた雑誌によってさまざま。特集や企画によっても、ときには別人かと思うほどに、多彩な表情で読者を魅了し続けてきたのです。

―それぞれの雑誌の女性像を背負い、表現するのは、小泉さんにとってどんな作業だったのでしょうか? イメージ作りに悩んだことはありましたか?

「『Oggi』という雑誌では、働く強い女性像を求められて、それは何となく私自身の理想にも近い感じがあって入りやすかったです。ただ当時は22歳で、雑誌の想定年齢よりもまだ若く、葛藤した部分はありましたね。とにかく撮影を積み重ねていくことで、迷いを払拭していった感じです。

『CLASSY.』では、雑誌の持つちょっと甘い女性像というものが、自分のなかにはあまりなくて最初は戸惑いました。本来の自分と違う部分を引き出さないといけない。中途半端に無理矢理でやってしまうと、その雑誌、そのテイストの服を着ることにも“やらされている”感が出ててしまう。雑誌の表紙モデルというのは、そのモデル個人と雑誌が上手くハマるかどうかってことだと思うんですよね。だから私は、演じるのではなくて、あくまで自分自身がそのイメージ近づいていくことが大事だと思っていました。

そのために必要なのは妄想力。このワンピースを着て彼に会うなら、私はどんな顔をするんだろう。そのデートではこういうことがしたいかも・・・と、どんどん“妄想”を膨らませて表現することに。妄想は小さいころからずっとしていましたし、得意分野ですから(笑)」

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「いろいろな人がいて、いろいろな当たり前がある」

“妄想力”を武器にトップモデルへと駆け上がっていく、順風満帆にも見える日々。しかし自身ののなかでは、迷いがあったそう。

― モデルとしての自分、“小泉里子”のイメージをどうとらえていましたか?

「ほかのモデルさんや、スタイリストさん、ヘアメイクさん、カメラマンさんに編集の方など、このお仕事に関わっている方は皆さん本当に個性的。それに比べると、私って何の個性もないなと。そんなふうに30歳半ばくらいまで、実はすごく悩んでいたし、彷徨っていました。

その時点ですでに表紙もやらせてもらっていて、求めていただけるという実感もあったけれど、『小泉里子ってこうだよね』という自分で納得のいく強いものが欲しかったんです。でもそれがわからなかった。私ってフツーだな、って(笑)。だけどあるときから、そのコンプレックスを逆に強みにしてしまえばいいんだと、個性を追求することをやめました。

仕事では自分のイメージではなく、雑誌のイメージを表現すればいい。それにそもそも人って、自分のことをわかりきれないものですよね。『私はこうだ!』って自分で決めてしまわなくてもいい。自分で自分がわからなくても、周りがわかっていてくれるからいいんだ、そう思ったら、うまくいくようになりました」


― その時々の時代背景もあったかと思いますが、さまざまな女性像を表現することで、例えば「結婚したらこうであるべき」「出産したらこうであるべき」など、世間が女性に期待しがちなこと、求めがちなことを意識させられたり、何か考えさせられることはありましたか? 

「世間が期待している、求めているというよりも、そもそも私が若いころから『正統に生きる』ってことに重きをおいているタイプだったんだということに気が付きましたね。いつかは結婚して子供を産む、そういうものだとずっと信じてきた。『こうであるべき、こうするのが当たり前』って。だけど、逆に仕事をしていくなかで、女性にもいろんな生きる道があることを知りました。年齢を重ねるごとに、もっともっと柔軟性が必要であることもわかってきましたね。『こうであるべき、こうするのが当たり前』は自分のなかではあっていいけれど、それを人に求めるのは絶対ダメだということにも気付きました。

そして2021年からドバイに住むようになって異文化に触れるうちに、その考えはさらに強くなりました。いろいろな人がいて、いろいろな当たり前がある。だから『普通』なんてないんです。自分の当たり前、普通は、誰かにとっては普通じゃない。だから互いに押し付けてはいけないです」

 

年齢、そして経験とともに、自身を「フツー」と思っていた彼女の「普通」の定義が大きく変化し、かつてと違う視点で世界を見渡す思考が出来上がっていました。

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「それまでの経歴や不必要なプライドにとらわれない生き方を」

小泉さんは2月に自伝『トップモデルと呼ばれたその後に 個性を売りにしなければ、人生が回り出す』を上梓。自身のキャリアと、ドバイでの今の暮らしをまとめています。


― 本の執筆は小泉さんにとってどんな作業でしたか?

「実は2年前にすでに一度書き上がっていたんです。けれどこの2年で出産、子育て、夫の仕事にともなってドバイへ移住と、大きな変化があって。さらにパンデミックで世の中もだいぶ変わりましたよね。それで大半を書き直しました。


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『トップモデルと呼ばれたその後に 個性を売りにしなければ、人生が回り出す』小泉里子 著/小学館


文章を書くことはとても苦手で、できれば人生において避けていきたかったことなんです(笑)。けれど、いまドバイで暮らしていて、日本に向けて自分のことを発信したり、日本にいる皆さんと交流していくためには、“書く”ということが大事になってくるとつくづく思いました。文章を書くのは大変ですが、自分のことを書くわけですから、書き始めることさえできたら意外とばばーっと言葉が出てきました」


― 自伝を書くという作業のなかで自身を振り返り、人生においてさまざまな決断や挑戦をしてきたことに思いを馳せたという小泉さん。執筆をとおして気付いた大切なことを、Humming読者にシェアをお願いします!

「人にアドバイスをするのは苦手なのですが(笑)。私はずっと自分の感覚で生きてきて、だからこそ、変われないこともあって苦しいときもありました。でもどんなときも、“素直でいる”ことは大事だと思います。それまでの経歴や不必要なプライドにとらわれて、素直でいられなくなるのはもったいない。

私はこれまでずっと雑誌の表紙をやらせていただいて、それはとても素敵な経験だけど、そのことにとらわれず、前に進みたいんです。『これだけやってきて、ここまで来たんだから・・・』って思いに縛られすぎてはダメだなって。それまでの経歴を無駄にしたくないと意地になって、しがみついて、素直にやりたいことに飛び込めない、新しいことに挑戦できないという状態は絶対に避けたいと思っています。人生はまだまだ続きます。“これまで”ではなく、“10年先”をどう生きたいのか考えて、今やることを決めていけたらいいですよね」


たくさんの読者から支持され、愛されてきた「小泉里子」というモデル。過去は過去としてその経験を大切に活かしつつ、その過去に縛られない道を進んで、自分らしく生きていきたい。彼女が選び、つかみ取っていく“これから”の人生が、また違う新しい形で多くの女性たちを勇気づけ、そして道標になっていくのだと思います。


次回vol.2では、ドバイ生活で得た新しいライフスタイルについてインタビューします。


Profile
小泉里子(こいずみさとこ)
15 歳でモデルデビュー。数々のファッション誌で表紙モデルを務め、絶大な人気を誇り、広告やテレビ番組でも活躍。着こなすファッションはもちろん、ナチュラルでポジティブな生き方が同世代の熱い支持を得ている。2021年2月には第1子となる男児を出産し、同5月より生活の拠点をドバイに移す。ドバイでの生活や子育てにもさらに注目が集まっている。Hummingでの連載「未来に続くBOOKリスト」も好評。
http://tencarat-plume.jp/
Instagram @satokokoizum1


SHOP LIST
アストラット 新宿店 03-5366-6560
ユナイテッドアローズ 六本木ヒルズ店 03-5786-0555


PHOTO = 嘉茂雅之
STYLING = 安西こずえ
HAIR & MAKE-UP = 森ユキオ
TEXT = 安井桃子

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