Humming♪

LiLyの舵取り「過信も卑下もしなくていい。ただリアルを受け入れるだけ」

私たちを惹きつける特別な魅力を持つひとは、誰にも負けない“個性”という輝きを放っています。各界で活躍し続けている彼女や彼に、“自分らしく”を大切にする生き方についてインタビュー。そのオリジナルなスタイルの秘密を探ります。前回のインタビューでは、LiLyさんの幼少期から、作家としてデビューし、母になるまでのストーリーを伺いました。今回は、ここからまた年齢を重ねてどう生きるか、今考えていることを語っていただきます。

生きるヒントを探して、焦りまくっていました

― さて、40代に足を踏み入れたLiLyさん。今、率直にどんなことを考えていますか?

「20代で作家デビューして、子供を産んで、30代は育児に邁進し、さらに半ばで離婚を経験して。仕事をしながら、結婚、二度の出産、育児、離婚を経験してはたと振り返ってみたら、デビューから9年しか経っていなかったんです。10代後半から、自分の目標をすべて達成すべく、年齢を逆算して焦りながらずっとずっと生き急いできたから、猛スピードでした。

で、30代半ばからは、生まれて初めて何にも焦っていない状態を経験したんです。もちろん、離婚後も育児と仕事の両立というハードな日々は続きますが、それでも初めて“今”だけにフォーカスして生きれた、というか。

最も大変だった“赤ちゃん育児”から、下の子が5歳くらいになって手が離れてきた時期だったというのもあって、心に人生初の“余裕”ができました。

離婚したことで、もう自分は二度とすることはないと思っていた恋をしたり、家では成長していく子供との対話を楽しんだり、人生を巻いて生きてきた分、まるで食後のデザートを味わっているかのような、どこか余生のような、そんな日々を過ごしていたんです。

それが、40歳まであと半年となったある日。はたと気が付いたんですよ。『やば! 私としたことが、今後の計画を立ててない!』と(笑)。“余裕”気分で人生のデザートを味わっている間に財布の紐もゆるみまくり、気付けば貯金額も激減していて・・・。40歳を目前に、“余裕”をまた失いました(笑)。今まで手も出さなかった自己啓発系の本を読み漁ったり、ネット記事も検索しまくり、40代以降の生きるヒントを探しまくっていました」

― ずっとプランニングをして生きてきたからこそ、大きな危機感を覚えたのですね。進むべき方向が見えなくなってしまったとき、LiLyさんはどう対処してきたのですか?

「そこは私はとてもシンプルで、すぐに行動を起こして焦りの原因を解決するんです。せっかちなので、ずーっと同じ問題を前にジッとしてはいられない。どうやらメンタルも同じ仕組みみたいで、悩んで悩んで悩み切って、一度しっかり底を打つようにします。底を打つとその反動でハイになって立ち直れるから。最長3日ですね。私は物事に白黒つけないと気が済まないタイプで、だからこんな極端なやり方で悩みから脱出するけれど、実はこれ、弱点でもあるんですよね。要は私、グレーの状態でいることに耐えられないんです。何かを迷っている状態に3日以上身を浸せられるほど強くない、とでもいいますか・・・。

3年前からnote.で『オトナの保健室』という読者の方との往復レター形式の相談室をやっているのですが、そこで読者の方に教えていただいた言葉があって。

『ネガティブ・ケイパビリティ(性急に答えに飛び付かず、不可解さに耐えて考え続ける力)』。世の中の大半はグレーですし、自分自身のことは即決でよくても、育児ではそうはいかない。親としても、この力はこれからちゃんと鍛えていきたいな、と思っているところです」

― では、LiLyさんの今後のプランニングを聞かせてください。

「40代以降の生きるヒントを探しまくったときに、あらゆるところで共通して語られていたことが、とにかく『体力を養うべき』ということ。運動です。そこでさっそく今年の1月からピラティスをスタートさせて、続くか不安だったのですが先日目標にしていた100回目を達成して。自分でも驚くほどハマっています。体が整うと、まるで自分のOSがアップデートされたようで、体の起動は早くなるし、脳もしっかり冴えわたるようで。自分に合っている、続けられる運動をやっと見つけられた、と安堵しています。

あとは、逆アプローチのようですが、◯◯にはなりたくない、という視点でプランニングすることもありかなと。35歳くらいから、また独身に戻ったことで恋愛も楽しんできたと言いましたが、同時に元々が恋愛体質なので気を付けないといけないな、と。恋愛にどっぷりハマって生活を乱すことは、母親として絶対にできないこと。子供たちが成人するまでは、第一優先は育児で、それは絶対です。『精神的自立』の大切さは年々増すな、と。

若い女の子が恋愛に依存して寂しい寂しいと泣くのは、青春。おばさんが同じことをしたら痛いんです。そこには年齢制限、あると思っていて。あ、でも、子供たちが成人して、恋愛で精神的に乱れる自由がまた手に入ったら、こんなはずじゃなかった・・・と泣きながら乱れてもみたいですけどね(笑)。いい小説が書けそう!」

― 40代からは、さらなる自立が始まるということでしょうか。

「はい。ただ、振り返ってみれば、私は10代のころから、自由に恋愛するために経済的に自立はしておこうという考えで、デビュー作にもそう書いています。経済活動としての結婚(婚活)をするか、自分も経済的に自立して大恋愛での結婚(永遠)を目指すか、の二択だと思っていたところがあったので。リアルよりロマン派だったわけです。

そして、大恋愛を目標とした結婚は、とても脆いですよやっぱり。結婚とは生活ですから。元夫とは今も一緒に育児をしていて子供たちにとって最高のパパなので、“ママは自由人で結婚は向いてないけど、すごくいい人と結婚したね!”と子供たちにも言われるくらいなので感謝しかないのですが(笑)。

そんな子供たちに一番教えたいのも、自立すること。自由とは、自立の上にしか成り立たないのです。そして、自由はとても尊いものです。簡単には手に入らないの。だから、今いちばん真剣に考えているのが『しっかり稼ぐ』ことなんです。大切なことだから繰り返しますが、40代はちゃんと稼ぎたい(笑)。

小説に関していえば、ズバリ、賞が欲しいです。評価のために書いているわけではないので矛盾しているようですが、自己満足ではない、今までよりももっと質の高い小説を書いていきたいという欲望が年々強くて。次のステージにいきたい。さらに私は執筆の時間そのものを愛しているので、それを守るために(連載を増やすのではなく一つの作品に集中できることが理想なので)、新しいビジネスを始めてもいいかなと。

執筆とビジネス、その両輪でやりがいと収入のバランスを取る。そんなことをイメージし始めている今日このごろです」

エモーションを持ち込まないことが、自分を活かすコツ

― 自分らしさを刷新しながら、しなやかに仕事に向き合っているLiLyさん。そのために何が必要でしょうか?

「やはり『客観能力を磨くこと』だと思います。私は安室奈美恵さんのことを敬愛しているのですが、彼女にインタビューしたとき、いちばん聞きたかったことを質問してみたのです。それが『ご自身で作詞はしないというスタンスを貫かれたことが凄いです。印税額を考えても、自分で書こうかなって思っちゃうと思う』と。というのも、私は彼女が作詞した数少ない楽曲の一つ『Say The Word』という曲も大好きだったから。書こうと思えば自分で書ける実力もあるのに、それでも作詞のプロに依頼するって、信念がなければできないこと。すると安室さんは微笑んで、こう答えました。『もちろんよぎりましたよ。でも、私がやったら(作品が持つ)可能性が狭まるから。それなりのものしかできないからです』と。ああ、さすがなだと思いました。

要は、ここまで客観的に自分の能力を見極める力があるかどうか、だと思うのです。『できる』『できない』ではなく、それを現実としっかり照らし合わせる。自分を過信するのでも、卑下するのでもなく、たった一つの“リアル”をただ見つめる。それが冷静にできれば、自分の立つべき場所、求められること、やるべきことなどなどが、自ずと見えてくると思うのです」

― それでも現実を冷静に把握するのは、なかなか難しい気がします・・・。そのためのヒントを教えてください。

「難しいとおっしゃるのもよくわかります。確かに簡単なことではないですよね。だからこそ私が心がけてきたのは、『エモーションを持ち込まない』ということでした。例えばですけど、女の子にとって“可愛さ”はデリケートな問題だと思うけれど、もし他人からランク付けされたとしても、そのことでいちいち落ち込んだり、傷ついたりする必要はまったくないということ。

学生時代にキャバクラでバイトしたときに、自分の見た目ランクをリアルに突きつけられた経験も役立っています。それも店によっても自分が置かれるランクが変わる。この場合に限っては、ルッキズムだ、酷い話だ、とかではないのです、キャバクラですから。
で、なるほどね、この店だと自分の外見レベルはかなり低いな、私はコミュ力が武器なんだ、などと自分の強みも見えてくるんです。

これはただの例ですが、みんな超可愛くていいな、私はそこのレベルじゃなくって悲しいな、とかそんな感情は混ぜなくていいんです。んなことは、どうでもいい(笑)。それよりも、自分の“リアル”を淡々と受け入れる。感情を持ち込まず、ただ状況を客観的に見るのです。

それができるようになると、この世界で自分が座るべき椅子がどこにあるのかも見えてきます。すると人生に支配されるのではなく、自分が人生の主人公となって、日々を有意義にドライブできるようになる。もし今、何かに行き詰まっていたり、自己評価と現実が噛み合っていないと感じることがあるならば、そんなふうに考えてみるのはいかがでしょうか」

 

人生を切り拓くために、とにかく外から自分を見つめることが大切だと語ってくれたLiLyさん。日々起こる出来事を自分本位に考えてしまいがちだからこそ、その現状を俯瞰して見る発想は、私たちの生きる知恵となってくれそうです。さて、その客観能力の高さを駆使し、彼女自身はどこへ向かうのか。vol.3では、今いちばん興味があること、さらに行きたい場所についてまで、話を広げていきます。


Profile
LiLy(りりぃ)
作家。1981年神奈川県生まれ。NY、フロリダでの海外生活後、上智大学卒業。音楽ライターを経て、2006年デビュー。恋愛エッセイ『おとこのつうしんぼ』でデビュー。小説『別ればなし』(幻冬舎)、エッセイ『オトナの保健室』(宝島社)など著書多数。現在は、雑誌『オトナミューズ』『VERY』『美的GRAND』にて連載。「フリースタイルティーチャー」(テレビ朝日)に出演中。最新小説は『BAD SEX』(幻冬舎)、エッセイは『オトナ白書』(宝島社)。
https://lit.link/lilylilylilycom
Instagram @lilylilylilycom
Twitter @LiLyLiLyLiLycom


関連記事