今回は、「空のヒーロー」だった風力タービンが、地上で「第二の人生」を歩み始めた物語をお届けします。
100メートルの高みで風をつかまえていた彼らが、今度は人のぬくもりを包む小さな家となり、私たちに「ものの価値は使い方次第で変わる」と教えてくれました。
――さて、それでは風が運んできた新しい暮らしのかたちを、のぞいてみましょう。
小さな家に宿る、大きなアイデア
巨大タービンが、地上で温かな明かりをともす「小さな家」に生まれ変わりました。設計したのはオランダ・ロッテルダムの建築事務所 Superuse Studios。使ったのは、ブレード(羽根)を支えるナセルと呼ばれるパーツです。
長さ10メートル・幅3メートル・高さ3メートル――数字だけ聞くとコンパクトですが、実物は一般的なワンルームより少し広いほど。天井が高く、開放感もしっかり。さらに屋根も壁も厚い断熱材で覆われ、オランダの建築基準をクリアしています。
たっぷりの光――三方向に大窓を設け、日中は照明いらず。
本格キッチン――IHヒーター、ワークトップ、収納を備え、自炊派も満足。
快適フルバス――トイレ・洗面・シャワーを一体化し、換気窓で湿気知らず。
「余白」の楽しみ――内装を固定せず、壁紙や家具で自分らしく彩れる設計。
設計者ヨス・デ・クリーガー氏いわく、V80型ナセルは「住める広さ」と「陸送可能なサイズ」の絶妙なバランス。世界に約1万基ある同型タービンが寿命を迎えても、こうした再利用が進めば、エネルギー設備は役目を終えたあとも“第二の人生”を歩み続けられるのです。
「羽根」たちも負けていない
ナセルだけではありません。リサイクルが難しい炭素繊維製ブレードも、おしゃれに再デビュー中。
例えば、再生企業『ReBlade』が廃ブレードでEV充電ステーションの雨よけを製作予定。公共空間インフラとしては世界初と話題になっています。
また『BladeBridge』は13メートルのブレード2枚を橋桁に転用。洪水時にも強い5.5メートルの歩道橋が完成しました。
欧州だけで今後5年間に最大1万4,000枚が解体される見込みですが、クリエイティブな再利用が進めばゴミは資源へと変わります。
エネルギー企業が挑む「解体のその先」
今回ナセルを提供したのはスウェーデンの電力大手 『Vattenfall』。イノベーション担当トーマス・ヨルト氏はこう語ります。
「大型洋上風車が引退を迎える時代に入りました。役目を終えた機械をどう社会に還元するかを考えるのは、私たち人間の責任です」
現時点で量産計画はありませんが、ナセルを活用したい企業には無償提供する方針とのこと。安定供給が難しい部品だからこそ、地域やコミュニティ単位でオーダーメイドの住まいを作る──そんな未来図も描けそうです。
身近な「リユース」を、少しだけアップデート
私たちの手元にも、まだ使えるのに捨てられるものがたくさんあります。洋服をリメイクしたり、家具を修理して長く愛したり。風車のナセルやブレードはスケールこそ大きいものの、発想は同じ。「生まれ変わった姿を想像してみる」ことから始まります。
環境に優しいだけでなく、「これが元タービンなの?」と語れるユニークさも魅力。次に風力発電所のそばを通ったら、空高く回るブレードにちょっと手を振ってみてください。風が運ぶエネルギーは、いつか誰かの温かな暮らしを照らす家になるかもしれません。
住まい選びも“心地よさ”や“ストーリー”を大切にしたくなるもの。役割を終えた風車が第二の人生で届けてくれるのは、電気ではなく「希望の灯り」です。私たちもモノとの付き合い方を少し見直して、地球にも自分にも優しい毎日を紡いでいきませんか。
参照記事:https://www.positive.news/society/the-decommissioned-wind-turbine-that-became-a-tiny-home

ライター:プロフィール

著者:堀江知子(ほりえともこ)|香港在住ライター
民放キー局にて、15年以上にわたりアメリカ文化や社会問題についての取材を行ってきた。
2025年からは香港に移住しフリーランスとして活動している。noteやTwitterのSNSや日本メディアを通じて、アフリカの情報や見解を独自の視点から発信中。
出版書籍:『40代からの人生が楽しくなる タンザニアのすごい思考法 Kindle版』。
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